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蒼穹のフロンティア【火星に咲いた、小さな太陽】
それは――戦いも、使命も、まだ遠い未来の出来事だった頃のユナ・アストリン。 火星の居住コロニー外縁区画に広がる菜の花畑。 人工的に調整された青空と、やわらかな陽光。赤い惑星の上にあるとは思えないほど、そこはあたたかく、穏やかな場所だった。 小さなユナは、まだ幼い体で一生懸命に花の中を駆けている。 「わあぁ……!」 両手に抱えきれないほどの菜の花を持って、ころころと笑いながら前へ進む。短い足取りで、何度もつまずきそうになりながら、それでも止まらない。 双子のお団子に結んだ髪がぴょんと揺れ、黄金色の瞳が太陽の光を受けてきらきらと輝く。その姿は、まるでこの花畑そのものが形になったようだった。 家族のそばで、コロニーの小さな世界の中で守られながら生きていた。 風が吹くたび、菜の花が波のように揺れる。 ユナは両手を広げ、全身でそれを受け止める。 「おはな、いっぱい!」 たどたどしい声でそう言って、くしゃっと笑う。 その笑顔には、未来への不安も、世界の重さもない。 ただ“今”が楽しくて、目の前の黄色い世界がきれいで、それだけで十分だった。 やがてこの少女が、どんな運命を背負うことになるのか―― 今はまだ、誰も知らない。 この火星の春だけは、 何も知らない幼いユナを、やさしく包み込んでいた。
