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蒼穹のフロンティア【理性と微酔のあいだで】

艦内の喧騒から離れた自室。静かな照明に照らされながら、エレナ・ヴァイスフェルトはグラスをゆっくりと傾けた。氷が小さく触れ合う音が、部屋の静寂にやわらかく溶けていく。琥珀色に揺れる梅酒のロックは、長い一日の終わりにだけ自分へ許された、ささやかなご褒美だった。 窓の向こうには、無数の星々が広がっている。研究室では常に冷静沈着な彼女も、この時間だけは肩の力を抜く。ヴァルキリアの設計データ、改修プラン、アリシアの機体適応率の推移――頭の中に並んでいた数値が、ゆっくりと霞んでいく。 「……少し、甘いわね」 小さく呟きながら、もう一口。氷が溶けるにつれて、梅酒の香りがやわらかく広がる。頬にほんのりと赤みが差し、視界の輪郭がわずかに優しくなる。 理論を積み重ね、完璧を追い求め続ける日々。誰よりも機体の強度計算に厳しく、誰よりも誤差を嫌うエレナ。その彼女が、今だけは数値でも理屈でもなく、自分自身の鼓動に耳を澄ませていた。 「……ちゃんと生きて帰ってきなさいよ、アリシア………」 グラスの縁に指をなぞりながら、ぽつりと漏れる本音。研究者としてではなく、士官学校時代からの同期としての想いが、アルコールに溶けてこぼれ落ちる。 視線が少し潤み、星空が滲んで見えた。酔いが回るほどに、普段は押し込めている感情が静かに浮かび上がる。それでも彼女は泣かない。ただ微笑む。 「……まったく、理系のくせに感傷的ね」 そう言いながら、再びグラスを掲げる。氷が溶けきる前に、最後の一口を飲み干す。 明日になれば、また冷静な研究者に戻るだろう。 だが今夜だけは―― 鋼を生み出す頭脳も、ほんの少しだけ、やわらかな梅の甘さに身を委ねていた。

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オリジナルキャラクター劉妃(りゅうひ)のイラストをメインで投稿しています。 小説「閃光のミラージュ」「蒼穹のフロンティア」も投稿しています。                                 ↑ って言ってましたけど、最近は思いつくまま色々投稿してます(汗 良かったら、いいね、フォローよろしくお願いします。

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