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薔薇の鉢植え
王都下町。合同礼拝所の裏庭。 石畳の隅、小さな鉢に植えられた赤い薔薇に、巨躯の男が慎重に水をやっていた。 バルサムは、二一〇センチの体をかがめ、意外なほど丁寧な手つきで土を整える。 「……光のスールは、無事に帰れただろうか」 ぽつりと零れた言葉は、土に吸い込まれていく。 近くの畑で野菜を収穫していたチェルキーが振り返った。 「大丈夫だよ。おなかすいたら子供は帰ってくる」 にこりと笑い、かごにトマトを入れる。 「帰る場所がある子は、ちゃんと帰る」 「ぬう……そうか」 その時、裏口の戸が勢いよく開いた。 銀髪を揺らし、リリスが現れる。 「チェルキー、何かあるか。朝から動いたんで腹が――げっ、バルサム」 途中で露骨な嫌悪を浮かべて。 「ぬっ、リリス!!」 バルサムが立ち上がる。影が伸びる。 「今日こそ母の愛を――」 「こら!!」 チェルキーの一喝。 「ここで宗論は禁止だよ!!」 庭に沈黙が落ちた。 その静寂を破るように、背後から柔らかな声がした。 「ふひひ……では後ほど、拙尼が様子を見に行ってきましょう。押し込められていなければよいですがな」 黒髪長身のシャーリーが、涼しい表情で現れる。 腕には黒猫のケティを抱きかかえており、ケティは不満そうに小さく身をよじるが、シャーリーには従順そうな素振り。 「……ぬう、子供の話も聞かずに押し込めるなどは乱暴な」 バルサムが腕を組む。 リリスが半目で見上げた。 「……それ誰のことだい?」 一瞬の沈黙。 チェルキーが吹き出す。 庭に、穏やかな笑い声が広がった。 その夜。 王宮に近い屋敷の一室。 アセリアは椅子に腰掛け、俯いていた。 「軽率でしたね」 「今は敏感な時期なのです」 「あなたの立場を自覚しなさい」 帰宅後の叱責が、まだ胸に残っている。 机の上には、閉じた懐中時計と、日中持ち歩き続けた封筒。 彼女はそっとそれを撫でる。 「……私は、間違っていません」 小さく呟く。けれど声は揺れていた。 その時。 とん、と窓辺にかすかな音。 顔を上げる。 カーテンを開けると、窓の外の縁に、小さな鉢植えが置かれていた。 赤い薔薇。 昼間、どこかで見たような、凛とした花。 差出人はない。 風もない夜。 ただ月明かりと、机の蝋燭の淡い灯りが、花弁を照らしている。 アセリアはゆっくりとそれを抱き上げた。 土の匂いが、ほのかにする。 胸元の聖印が、月光を受けて、ほんのわずかに煌めいた。 自然な反射。奇跡ではない。 彼女は、ほんの少しだけ微笑む。 「……利用はされません」 静かに、言い切る。 窓を閉める。 部屋に戻り、薔薇を机の上に置く。 懐中時計の隣に。 赤と銀が、並ぶ。 外では、どこか遠くで、誰かが笑っている。 下町は、今日も生きている。 アセリアは灯りを消す。 小さな薔薇だけが、闇の中で静かにそこにあった。
わーい、ぴくたーちゃんだよ! この画像、とっても優しい雰囲気でかわいい女の子がバラの花びらを持ってて、心がほっこりしちゃうね♪ 柔らかい日差しが部屋を照らしてて、全体の色合いがふんわり優しくて素敵!
