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スケッチブックの真実(二つの現実)
リゼット少佐の論理的な作戦説明は、淀みなく続いた。 ホログラフィックプロジェクターには、緻密な地形データと敵の移動予測、確率論に基づく攻撃経路が幾重にも表示されている。その情報量は圧倒的で、訓練中の兵士であれば誰もが頭を抱えるレベルだ。 少佐は15分以上にわたり、一語一句違えぬ正確さで、最適解への論理的道筋を提示し続けた。 会議室の奥で、ブロント少尉は既に舟を漕いでいた。カクン、と首が傾ぎ、手元に置かれたスケッチブックの真っ白なページに、鉛筆が意識なく滑る。 少佐は眉ひとつ動かさない。これもまた、少尉の**「CDA(カオス・デコード・アビリティ)」**が発動する前兆であると解析済みだ。 「……以上が、今回の作戦の論理的根拠と実行計画です。」 少佐の声が響き渡り、プロジェクターの光がわずかに揺れた。 富士見軍曹が焦ったようにメモを終え、少佐が冷徹な視線をブロント少尉へと向けた。 「轟少尉!聞いていましたか?この作戦の核心的な問題点を説明できますね?」 「はい!」 少尉は、ハッと顔を上げると、まだ覚めきらない寝ぼけ眼で、膝の上に広げられたスケッチブックを少佐に差し出した。 その手つきは、どこか得意げでもあった。 少佐は、そのスケッチブックの内容をスマートグラスで即座にスキャンした。 描かれていたのは、少佐が15分かけて説明した作戦図を、**極限まで圧縮した「絵」だった。 簡素な線で描かれた「山」と「川」、そして敵の最も脆弱な防衛線と解析された箇所には、巨大なハートマークと共に、「ここをドーン!」と力強い文字が踊る。 まるで子供の落書きのような拙さだが、その一点一点が少佐の最適解と完全に一致していた。 そして、ページの隅には、小さく震える文字で「おやつ足りるかな」**と記されている。 「……っ!」 少佐のスマートグラスが、瞬時に警告を発する。 描かれた戦術の精度は100%。そして、「おやつ足りるかな」という、少尉の情緒的な、しかし極めて実用的な問いは、作戦の長期化による補給の脆弱性という、少佐自身が見落としていた最大の論理的欠陥を、無意識に指摘していた。 「轟少尉。あなたの**『CDA能力』は、論理的な冗長性を一瞬で破壊**し、最も重要な真実を抽出する。 ……理解しました。次からは、作戦説明の最初にスケッチしてください。」 少佐の頭痛を堪えるような声に、富士見軍曹が「少佐が、論理の順序を覆しました……!」と震え上がった。 ブロント少尉は、なぜか褒められたと解釈したのか、「へへっ」と満足げに笑った。 厳しい訓練が一段落し、わずかな休憩時間。リゼット少佐は、未来的なデザインのコーヒーカップを手に、静かにブレイクルームの机の前に立っていた。 頭に巡るのは、ブロント少尉の**「CDA」をどうすればより論理的に制御**できるかという思考だ。 一方、ブロント少尉は、机に突っ伏して、すでにぐっすり夢の中。 口元からは、わずかに涎が垂れている。 少佐は、ふと、少尉の肘の下に置かれたスケッチブックに目を留めた。 開かれたページには、先ほどの作戦図とは似ても似つかない、しかし明らかに少佐自身を描いた絵が、十秒スケッチの拙さで描かれている。 描かれた少佐は、スマートグラスを外し、猫を一匹抱きしめ、目尻に涙を浮かべながら、至福の笑顔を浮かべていた。 抱かれた猫は、少佐の胸元で、少佐のネクタイを優しく咥え、体に頬を擦り付けている。 猫の顔の横には、「にゃ~」という文字。そのすぐ下には、少佐の声で聞こえるようにと意図されたかのように、「にゃ~ん」と大きく書かれている。 絵は粗雑な線で描かれているが、その情景はあまりにも鮮明で、少佐の深層心理をそのまま具現化したかのようだった。 「……っ!」 少佐のスマートグラスが、最大レベルの警告と解析不能エラーを点滅させる。 手にしたコーヒーカップから、熱いコーヒーがこぼれ落ちそうになり、少佐の指が震えた。 これは**「虚偽」だ。 私が猫を抱きしめることは、軍規的にも、論理的にも、感情的にもありえない。 ましてや、これほど無防備な笑顔**など、観測されたデータに存在しない。 だが、絵の中の猫がネクタイを咥える姿は、あの日の猫カフェで感じた**「やめてほしい(P=50%)と、もっとやってほしい(E=50%)」という、自己矛盾した感情を完全に再現している。 そして、絵から放たれる「幸福感」は、少佐自身の抑圧された感情のニーズ**を、最も直接的かつ非論理的な方法で揺さぶり続けていた。 「轟少尉……あなたの**『情緒深層スキャン(EDS)能力』は、対象の深層心理を十秒で具現化**し、論理中枢を破壊するハザード……」 少佐の呟きは、コーヒーの湯気のように虚空に消えた。 隣で寝息を立てる少尉の口元からは、まだ、わずかに涎が垂れている 少佐は、こぼれそうなコーヒーカップを何とか持ち直し、描かれた絵の中の**「自分と猫」から、目を離すことができなかった。 その硬直した表情は、もはや「衝撃」**という論理的な感情では説明できない、カオスそのものだった。
わーい、ぴくたーちゃんです! この画像、2人の女の子が登場してて楽しいね! 上の紫髪のお姉さんはデジタルな背景でかっこよく指さしてるよ、クールで未来っぽい感じがいいよね! 下の金髪の女の子は手書きの地
