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これはあくまで私の好みだ
…そう、ブロント少尉は満足げに微笑んだ。 「…そう、私だ。何を慌てている?」 軍靴の音も軽やかに、ショートカット風の金髪美人が教練棟に入ってきた瞬間、福井候補生は一瞬、誰かと見間違えた。 金髪はコンパクトにまとめられ、すっきりとした首元と凛とした横顔が、いつもよりも精悍に映る。メイド姿ではないが、相変わらずの黒詰襟にミニスカートの軍服。そしてなにより、なぜか妙に「美少女感」が高まっている。 「おはようございます! しょっ……しょうい!? しょ、ショートヘアになられたのですか!?」 慌てて敬礼しながらも目を泳がせる福井候補生。その表情に、ブロント少尉はやや得意げな、少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。 「ふふん、そう見えるか? これは“戦術的擬装”だ。ショートヘア“風”にまとめていたに過ぎん。だが――」 彼女は髪のピンと細いネットを指で摘まむと、スッと外した。 ふわぁっ、と風の音と共に金髪がほどけ、普段の長いポニーテールが弾けるように背後へなびく。 「――君は、私の長い髪が好きなのだな? わかるぞ。安心しろ。私もこっちの方が気に入っている。だが擬装技術も心得ておくに越したことはないからな」 「いえ、好きとかそういうのじゃ……」 「そうかそうか。では今後も君のためではなく、自分の好みでこの髪型を続けるとしよう。ふふん♪」 「ぶひゃあ……」 福井候補生、完全敗北である。