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波打ち際の修行者
朝もやの立ちこめる砂浜。まだ季節は晩春、潮風は鋭く冷たい。 そんな場所に、黒い詰襟とミニプリーツスカートの少女がひとり、裸足で波打ち際に立っていた。 ブロント少尉である。 「本日は、地の力と水の力を同時に体感せしめ、全身を錬成する特別訓練である!」 ジャキ、と空気を切るように構える姿はやけに堂に入っている。 「波に揺らぐ足元こそ、不安定の極み。すなわち、真のバランスとはこのような場にてこそ試されるのだ!」 真剣な面持ちで、型を踏む。 そして——中段回し蹴り。 ザァァッ!! 波しぶきを巻き上げるように、スカートの裾がなびき、 ブロント少尉の足裏の中足が見事な軌道を描いて、斜め上から回り込むように蹴り込まれる。 ──見事なフォームだった。 「……やればできるじゃない」 堤防から見ていた富士見軍曹が、ついポツリと呟く。 その瞬間。 ザブン! 「ぬおっ!?」 蹴り終えたブロント少尉の軸足が、さらわれた。 崩れた重心。ふわりと浮いた足。 次の瞬間、彼女はあっさりと波の中へ——ドボン。 「ぬわぁっ!?波の反撃とは……聞いていない!!」 冷たい海水に背中から突っ込んだブロント少尉が、びしょ濡れになって這い上がる。 「だから言いましたよ、少尉。今日は波が荒くて水は冷たいって」 「軍曹、我はあえて寒水での裸足を選んだのだ……足裏の感覚こそ、真の戦場を知る鍵……」 「風邪ひいても知りませんからね。ったく……やればできるのに、なんで最後に落ちるかなぁ……」 軍曹がタオルを投げながら、ため息交じりに笑った。