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虎と黒猫・どらネコと
「少尉、今日の訓練では、ちゃんと“戦闘服”を着てくださいね」 朝の点呼後、富士見軍曹は、これ以上ないくらい真剣な目つきでブロント少尉に念を押した。 「うむ、心配無用だ軍曹!本日は正規の迷彩装備を着用して訓練に挑む所存である!」 部屋に戻ったブロント少尉は、どこからか取り出した謎の迷彩服を満足げに広げる。 「見よ、この異国のタイガーストライプパターン!伝統と野性が融合した奇跡の一着!」 着替え終えたブロント少尉は、誇らしげに鏡の前でポーズを決めていた。 その様子を、窓辺にひそんでいた黒猫がじっと観察している。 「面白い柄だニャ…」 その黒猫は――しっぽが、一本ではなく、二本あるように見えた。 ふわりと風が吹き、光が瞬いた。黒猫の姿がにじむように揺らぎ、次の瞬間、そこには白と黒の鮮やかなタイガーストライプ模様の猫が、窓からぬるりと部屋へと入ってきていた。 「おや?どこから入ってきたの?……あら、かわいい猫ちゃん!」 ブロント少尉はその猫、ホワイトタイガーキャットを抱き上げ、頬ずりしながら満面の笑み。 「この子、わたしの迷彩とそっくりじゃない!?まさか……わたしに憧れて……!?まあ、わかるけど!」 とろけるような笑顔で猫を抱きしめていたそのとき―― ガチャッ、と扉が開き、富士見軍曹が現れた。 「少尉、お着換えお済みですか?」 「ぐっ、軍曹!!」 「その猫……どこから?」 「いや聞いてくれ軍曹!この子はわたしのタイガーストライプとまったく同じ模様で、偶然とは思えぬ運命的邂逅を感じたのだ!」 「……寝ぼけてるんですか、少尉」 軍曹がじと目でにらむと、少尉は目をそらした。視線を落とした猫は――なぜか、いつのまにか全身真っ黒な猫になっていた。 「ち、違う!さっきまでちゃんとストライプ模様だったんだ!軍曹も見たでしょ?」 「いえ、一貫してただのどらネコでした。ほら、どう見ても真っ黒ですよ」 「そ、そんな……」 ふてくされたように猫を胸に抱く少尉。その猫の後ろ姿――そのしっぽは、なぜか二本に分かれていた。 しかし、誰もそれに気づくことはなかった。