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かえる大好きアンジェラちゃん
「わっ、わたしが、かっ、カエルが苦手などという噂があるが、そっ、そんなことないぞ……!」 演習場裏の静かな木陰に、朝の光を背に受けて立つブロント少尉の声が響く。 制服の肩章や特技章が、朝日を受けてきらりと輝く。 その手のひらには、緑がかった可愛らしい大きめのアマガエルが、まるで女王の玉座のごとく、堂々と鎮座していた。 「ほら、見ろ。手に乗っけて、餌をやっているんだぞ……」 その声に力を込めながらも、少尉の笑顔はどこかぎこちない。 つややかな金髪のポニーテールの横に、いつの間にかもう一匹のカエルがよじ登っている。 どうやら、本人の意思とは関係なくカエルに好かれる体質のようだ。 少尉の掌の上で、カエルがぴゅっと舌を伸ばし、人工餌を見事にキャッチする。 「ど、どうだ。自然との共生だぞ、ふつくしい光景だろう……」 ──ピョンッ! 突如、カエルが跳ねた。 その行き先は、まっすぐに少尉の顔。 「のわ〜っ!!」 高らかな悲鳴が上がり、少尉は反射的に華麗な横跳びで回避。 着地の勢いで制服のミニスカートがふわりと舞い、ポニーテールが跳ね踊る。 それを少し離れた木陰から見ていた富士見軍曹は、ふっと微笑んだ。 (……やっぱり、かわいらしい人ね) 厳しく訓練に励む姿も凛々しいが、こうして動揺する姿もまた人間らしくて、思わず頬が緩んでしまう。 少尉はすぐに立て直すと、精一杯平静を装いながらカエルをもう一度拾い上げた。 「……ふっ、予想以上に跳躍力が高かっただけだ。問題ない、想定内だ!」 「はい、少尉殿。たいへん……お見事でした」 富士見軍曹はにこやかに応じながら、少尉の背後で朝日がまぶしくきらめく光景を眺めた。 そこには、ちょっと背伸びしたい少女士官と、彼女に惹かれる小さな命との、不思議で優しい時間が流れていた。 その日、アマガエル用の水槽には「特別戦技研究用」と書かれた札が新たに添えられた。