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朝日を睨み駆け抜けて

まだ夜の名残が湿原の空気を冷やす中、東の地平線がわずかに朱を帯び始める。湿った草の香りと、遠くで鳴く鳥の声が静かな緊張を孕んだ朝を告げていた。 伏せた姿勢のまま、少女は銃を握る指にわずかな力を込めた。 黒の詰襟軍服に身を包み、前髪の隙間から漏れる光に、彼女の金髪ポニーテールがきらりと揺れる。 「……視界は悪くありませんが、太陽が鬱陶しいですね。富士見軍曹は、こちらが背に受けてくると踏んでるでしょうが」 朝日を真正面に受けながら、彼女はうっすらと目を細める。 それでも、眩しさに目を閉じることはない。いや、許されない。今こそ――虚を突く瞬間だ。 「小隊!!、前進する。予定より三十秒前倒しで突撃開始。陽光を盾にするなど甘えである!」 そう言い放つと、彼女はM3サブマシンガンを肩から引き、低い姿勢のまま一気に飛び出した。 朝日が正面から照りつける。光が装備帯の金具や銃の表面で反射し、瞬間ごとに閃光のような残像を周囲に刻みつける。 「――来たかッ!」 守備陣の陰から身を乗り出す富士見軍曹は、朝日に照らしだされながら、 突撃してくる少女のシルエットに驚きの声を漏らした。 彼女の予想では、敵は太陽を背にし、影を伸ばしながら来るものと踏んでいた。 だが、あえて目を細めさせる順光の中で来るとは。 「……ブロント少尉、朝日を正面に突っ込んでくるなど……無謀にして、戦術の変態……ッ!」 突撃の勢いは止まらない。 ブロント少尉は濡れた草地を駆け、靴底がぬかるみにめり込むたび、細身の身体がわずかに揺れる。 だが、M3はぶれず、銃口は常に陣地の中心を捉えている。 「富士見軍曹!!」 その声は空気を突き破るように響いた。 「この陣地は、我々が制圧しました!!」 次の瞬間、富士見軍曹のもとへ銃口がピタリと止まった。 彼女は笑いを含ませた表情で両手を上げる。 「……了解。完全に虚を突かれました、ブロント少尉。完敗です」 「作戦というものは、時に“太陽の方向”すら裏切るものです。」 ブロント少尉の頬には汗が流れていた。だが、その目は確かに光を捉えていた。 目を細めながらも、見据え続けた朝日の向こう――勝利の象徴を。

さかいきしお

コメント (16)

2025/06/13 13:20
2025/06/12 15:00
2025/06/12 14:00
2025/06/12 13:53

軍曹、鏡を使えば!

2025/06/12 13:31

太陽拳ニャ!

2025/06/12 13:07
2025/06/12 00:21
2025/06/12 00:04

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