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ブロント少尉|かき上げ前髪(誤解を生む熱中症)
陽光が白く焼けるプールサイドの日陰、コンクリートの照り返しと蝉の声が空気を震わせている。 濡れた髪の束が額に張り付き、ブロント少尉は仰向けに寝かされていた。 肌に触れる日陰の土はひんやりとしているが、それすらも感覚があいまいになるほど意識が朦朧としている。 開かれた詰襟の黒軍服――帝国制式中間服は、意外にもワイシャツ型で、上のボタンが二つ外されている。 シャツの襟元からはうっすらと汗をにじませた鎖骨が覗いていた。 少尉はうっすらと目を開け、重たい呼吸の中でゆっくりと右手を持ち上げる。 滲む視界の中で、張り付いた前髪を手の甲で拭い、くしゃりと髪をかき上げた。 その仕草は、まるで戦いの後に視線を向ける女傑のように――儚げで、それでいて強い。 けれども実際には、熱中症寸前。 氷入りの大きな茶碗を差し出したあと、富士見軍曹に「あなたが冷やされなさい」と言われ、 その場に寝かされてシャツのボタンを外されたのだ。 「……ふ、じ……見軍曹……さむい……のではなく……つめたいが……いい……」 呂律は少しあやしく、目の焦点はまだ戻らない。 それでも無意識のかき上げ前髪だけは、軍人としての矜持か、見事に決まっていた。 軍曹がタオルで氷嚢をくるみながら呟く。 「少尉、氷代えますよ」 それに対して返事はなく、少尉は再び額に手を当て、再度、髪をふわりと――かき上げた。 水滴が滴り、金髪が揺れる。 熱のせいか、ただの癖か。それすらもわからない、かき上げ前髪。 富士見軍曹がしゃがみ込み、顔を近づける。 黒髪ボブがふわりと揺れ、いつものクールな表情を崩さぬまま、静かに少尉の前髪に手を伸ばす。 「少尉、失礼しますね」 濡れた金髪を指先でそっとかき上げ、汗に濡れた額をあらわにすると、 自分の額をスッと寄せて、額と額をそっと触れ合わせる。 コツン――。 「……はい。まだ熱いですね。もう少し、横になっていてください」 声はいつも通りの丁寧なトーン。でもその距離と静けさが、なぜか見ている側の胸をざわつかせる。