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【冷たいお茶】狙われた日常!喫茶店に潜む罠
今日はとっても暑い夏日でした。お出かけしてた私達三人は、良く行く行きつけの喫茶店に寄る事に。店内に入ると、冷房の効いた涼しい空気が私たちを包んでくれて生き返ります。 「あら~、花畑チャン、理久津チャン、黄場チャン。いらっしゃい♡」 店長さんがにこやかに挨拶してくれる。男の人なのにウェイトレスの格好をしてるから最初はギョッとしたけど、優しくていい人なんだ。 「薔薇原(ばらばら)チャン、彼女たちをお席に案内して差し上げて」 「いらっしゃいませ、こちらのお席にどうぞ。こちらはサービスの麦茶です、キンキンに冷えてますから気持ち良く飲んじゃってください」 店長さんの指示を受けた、いつもは見かけないウェイトレスさんが席に案内してくれた。確かに麦茶は冷気が立ち上るのが見えるほど冷えてる。今日は暑いから嬉しいなぁ。 「ご注文がお決まりになりましたら、お席備え付けのボタンでお呼びください」 私達三人は、今まで炎天下を歩いていた事もあって喉がカラカラ。サービスの麦茶をごくごく飲んじゃいました。本当にしっかり冷えてて、すっごく美味しい。それからメニュー表を開いて、何かスイーツでも頼もうかなぁって眺めてたんだけど。何だか、お腹がぐるぐる鳴り始めちゃった。 「うう・・・なんか、お腹痛いなぁ」 「花畑、オメーもか。実はオレもなんだ・・・」 「わ、私も・・・冷たいお茶を一気に飲んじゃったからかなぁ?」 私だけじゃなく、美空ちゃんも朝霞ちゃんもお腹を押さえてる。でもおかしいな、いくら冷たいお茶でも飲んだ後は体温で温められるはず。アイスを食べたってこんなにお腹の中が冷たくなったりしないのに。 「フフフ、かかったわね!まんまと私特製のお茶を飲み干すとは、無様だこと!オーホッホッホ!」 お腹を押さえて唸る私達の前に、さっきのウェイトレスさんが現れた。そしてバサッと服を脱ぎ捨てると、その下から出てきたのは緑のドレスに白衣をひっかけた見慣れた怪人。 「ば、バラバラヴァー!?」 「な、何でテメェがここに・・・」 「まさか、待ち伏せを・・・!?」 驚く私達。バラバラヴァーは勝ち誇って笑い、私たちを見下してくる。 「今日みたいな暑い日なら、あなたたちはきっと喫茶店で一息つくだろうと思って潜入していたのよ!そのお茶は麦茶じゃなくて、私が特別に調合した『麦茶と寸分違わぬ味でありながら、決して温まる事の無い液体』だったのよ!今もあなたたちのお腹の中からガンガンと体温を奪っていっているようね!何度も自分で試しながら作ったから、効果の程は容易に想像できるわ!」 「く、クソが・・・そんなロジカルじゃねェ作り方した毒を盛られるとは・・・!」 「ちぇ、チェンジ・・・マジカヨ・・・だ、だめ、集中できない」 お腹が冷たくて痛くて変身できない。立ち上がるのも無理なレベル。バラバラヴァーはにやりと笑って、小さな瓶を三つ取り出した。 「もちろん、解毒剤ならあるわよ?あなたたちにあげてもいいんだけど、一つ条件があるわ。実験体として、マジカヨリリカルの身柄を私に無抵抗で引き渡す事。できないなら解毒剤は処分するわね?オーホッホッホ!」 ひ、卑怯だ・・・でも私が大人しくバラバラヴァーについて行けば、二人は助かる。ここで断ったら、三人ともバラバラヴァーにやられちゃう。美空ちゃんはそれが分かってるから、何も言わず私をじっと見てる。仕方ない、提案を飲むしか。 「ちょっといいかしら、薔薇原チャン」 いつの間にか、バラバラヴァーの後ろに店長が立ってた。すごい威圧感。バラバラヴァーも思わず怯んでる。 「な、何よ?」 「ウチはね、飲食店なの。あなたと花畑チャンたちの間に何の因縁があるのか知らないけど、お客様として来てくれた方々に変な物飲ませるなんて言語道断。そのお薬を三人に渡してちゃんとごめんなさいをなさい」 「ふ、ふざけないで!私はヤバーイの四天王、解剖博士バラバラヴァーよ!?そんなみっともないマネするわけが」 ガシッ!と店長の手がバラバラヴァーの顔面を掴んで黙らせた。もう一つの手で解毒剤の瓶をもぎ取って、私たちのテーブルに置いてくれる。 「躾が必要なようね。花畑チャン、理久津チャン、黄場チャン。本当にごめんなさい。そのお薬を飲んで、元気になれたら今日はもう帰りなさい。今度来た時、スイーツをサービスするわ♡」 私達にウィンクをした後、店長はバラバラヴァーを引きずってスタッフルームに消えてった。私達は顔を見合わせた後、バラバラヴァーの持ってた解毒剤を飲んでみる。たちまちお腹の冷たいのが治ってぽかぽかしてきて、普通に動けるようになった。 「て、店長大丈夫かな!?バラバラヴァーだって怪人だから、店長が危ないよ!」 「だな、様子を見に行くか」 「店長さんがひどい目にあってたら助けないと・・・!」 スタッフルームのドアの前に近づくと、中から言い争うような声。 「オラッ、尻出せ!」 「きゃあ、ちょっと何するのよ!やめ・・・きゃひいいん!?」 断続的に『パンッ、パンッ』という音とバラバラヴァーの悶える声が聞こえてきた。こ、これってもしかして、お兄ちゃんの漫画で読んだ展開みたいな事が・・・!? 「い、痛そうな声・・・バラバラヴァー、店長さんにあんなすごい音がする力でお尻ペンペンされちゃってるのかな・・・?」 「えっ!?お尻ペンペン・・・あ、ああ!そっちね!なるほど!」 朝霞ちゃんの言葉に過剰反応しちゃった。美空ちゃんがすごいジト目で見てくる。 「オイ花畑、オメー顔真っ赤だぞ。汗もすげぇし」 「さ、さっきの解毒剤が効きすぎたのかも!?はー、あっついなぁ!きょ、今日はもう帰ろうか!店長も大丈夫そうだし!」 私は誤魔化して帰ろうとしたんだけど、二人はいやいやいやって感じで手を振る。 「流石にほっとくのはやべーだろ。店長が死んだら寝覚め悪りィぞ」 「そうだよぅ、今なら変身もできるし!戦おう、梨々花ちゃん!」 え、えー?どうしよう、どうしよう。朝霞ちゃんが言うように、お尻ペンペンなら良いんだけど、私の想像の方が当たってたらすごい気まずいよぅ。 「くっ、お、覚えてなさい・・・!この屈辱、万倍にして返してやるんだから!」 ドアの向こうからバラバラヴァーの捨て台詞とピシュンという転移魔法の音が聞こえた。すぐに店長がドアを開けて戻って来る。 「あら、三人ともお薬が効いたのね、良かったわぁ♡」 「て、店長。大丈夫だったのか?」 「バラバラヴァーに襲われたりとかはしてないですか?」 美空ちゃんと朝霞ちゃんが心配して店長に詰め寄るけど、店長はにっこり笑った。 「大丈夫よ、ちゃんとお仕置きしておいたから。薔薇原チャンにはもうお店に来ないよう言っておいたし、これからも安心してここに来てちょうだい♡」 て、店長強い。・・・結局、私の想像と朝霞ちゃんの想像、どっちが正しいのか分かんなかったけど。絶対聞けない。そんな事聞いたらえっちな子だって誤解されちゃうよぅ。