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金魚すくい、奴らの足元を掬え!!
「聞きました? 帝国海兵隊、今年の夏祭りで“金魚すくい”をやるそうですよ」 富士見軍曹がぼそりと呟いた瞬間、ブロント少尉の目が静かに見開かれた。 「金魚……すくい……?」 小さな部屋の片隅、体操着姿で農具の手入れをしていたブロント少尉の手が止まる。額に汗を浮かべたまま、彼女はゆっくりと視線を宙に向けた。 「金魚……すなわち、金色の魚。金色の鱗、金色の冠、恐らく…深海の王族クラス。まさか海兵隊、深き者どもと交戦状態なのか……?」 「……違います。まったく違います。縁日です。ただの祭りです」 「いや、違わない、違えない。海兵隊が“金魚すくい”などという言葉を使うなど尋常ではない。きっと、奴らのコードネーム……!」 「だから違いま――」 「奴ら、金色の者たちを――“金魚”と――!!」 「(聞いてないですね)」 そして、その夜―― 【夢:幻想空間・赤提灯の海辺の決戦】 夕焼けに染まる縁日の海辺、屋台が立ち並ぶその奥。波打ち際に黄金の光が差す。 ブロント少尉、黒の詰襟軍服にプリーツミニスカート、ジャングルブーツを履いた姿で、鋭く地を睨む。彼女の金髪ポニーテールが風に揺れ、階級章と略勲章が赤く照らされる。 海から、にゅ、と姿を現したのは── 「……出たな、“金魚”」 金色の鱗に覆われた直立の半魚人。顔はまごうことなき金魚。だがその手には、光り輝く三叉の銛。背には潮をまとった王の威厳。そして── 「貴様の背後にあるのは……屋台! つまり、ここが戦場というわけか!」 ブロント少尉、地を蹴って突進。回転するように低空で滑り込み、スカートがひらりと舞う中、鋭い後ろ回し蹴りが金色半魚人の足をとらえる! 「──足元が甘いですね、“金魚”!」 ヒュッ! と風が舞い、半魚人が宙を回転して見事にすってんころりん。金冠が宙に浮かび、地面に転がる。 「これが……我が“金魚すくい”……!」 カァッと誇らしげに胸を張るブロント少尉。その背後には、金色の半魚人がピチピチと地面に仰向けで跳ねている。 「……勝利、確認。帝国陸軍の面目、保たれたり」 【現実:深夜の駐屯地・ブロント少尉の私室】 「むにゃ……勝った……半魚人……すくった……すくってやったぞ……」 畳に敷かれたお布団で、ブロント少尉はうっすら笑みを浮かべながら眠っていた。 外ではカエルが鳴き、富士見軍曹がそっと寝顔を見に来て呟く。 「……楽しそうな夢で良かったですね、少尉」 彼女はそっと布団を直すと、再び静かに部屋を後にした。夢の中の戦場では、ブロント少尉がすくった“金魚”が今日もピチピチと跳ねていることだろう。