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【カタツムリ】鉄壁のスネイルミ!目覚めるリリカルの力
「速報です、次のニュースの予定を変更してお送りしております。雨の降り注ぐ魔鹿町(まじかまち)市民公園に巨大なカタツムリが出現しました。付近では同生物から産み落とされたと見られる小さな個体も複数確認され、市民が襲われた例も報告されています。警察はここ最近の怪物騒ぎの一環と見なしており、当該生物に接近しないよう警戒を呼び掛けています」 そんなニュースが流れたのもついさっきの事。私達は例によって怪物を連れて現れたバラバラヴァーと戦っています。 「フフフ、今日の怪獣『スネイルミ』は見ての通り、『カタツムリ』と『イルミネーション用電飾』を融合させたものよ。この虹色の光によって構成されたバリアは何者であろうと破れないわよ!」 「ふん、では試してくれよう。ワレの魔力砲に耐えうるか?」 フィジカルが口から魔力砲を放ったけど、スネイルミはバリアでそれを上空に受け流しちゃった! 「そんな!一撃で辺り一帯を焼け野原にしちゃうフィジカルの魔力砲が通じないなんて!」 「フフフ、まるで光がプリズムによって波長ごとに分散されるように、衝撃を段階的に分散させて受け流せるバリアなのよ。今はやや下から当たったから上空に逸れていったけど、ちょっと角度が変われば町の安全は保障できないわねぇ?」 「チッ、オイフィジカル、もう魔力砲は撃つんじゃねえ。オメーの魔力砲が万一下に受け流されて地面に当たって見ろ、オメー以外全員ゴミみてぇに消し飛ぶぞ」 「ヌゥーッ、コシャク・・・」 私やロジカルも、町に当たっても平気なくらいの威力で魔力砲を撃ってみたけど、やっぱり全部逸らされちゃう。遠距離からじゃ攻められない。 「ならば、この拳で打ち砕くのみ!」 フィジカルが果敢に殴り掛かったけど、スネイルミの体表はぬるぬるの粘液で覆われていて上手く打撃の衝撃が伝わらないみたい!フィジカルは逆にスネイルミに跳ね飛ばされて、全身ぬるぬるになって倒れちゃった。 「お・・・おのれぇ・・・」 「フフフ、スネイルミの粘液は衝撃を和らげ、ぬるぬるの潤滑力で打撃を受け流すのよ!受け流しに特化し、町の破壊はその巨体で行う『防御特化型怪獣』!それがスネイルミ!そして本体が産み落とした小さな子達も、全て同じ特性を持っているわ。いずれ成長し、この世はスネイルミ軍団によって蹂躙される事でしょう!」 「させるかよォ!」 ロジカルが隙をついてバラバラヴァーに魔力砲を降らせるけど、バラバラヴァーはそれを片手で跳ねのけた。 「なぁに、この弱い攻撃は。苦し紛れなのがバレバレよ、マジカヨロジカル!」 「うぉわ!」 スネイルミが口から粘液を吐き出して、ロジカルはそれをまともに浴びちゃった。 「クソが・・・」 「フフフ、いい格好ねロジカル!さっきのお返しよ!」 バラバラヴァーが四つん這いになったロジカルのお尻目掛けて弱めの魔力砲を撃ってきた! 「きゃあん!?」 「あら、『きゃあん』ですって。女の子らしい悲鳴も上げれるのね、面白い新発見だわ。ホーホッホッホ!」 「殺す・・・殺してやるっ・・・!」 でもロジカルもフィジカルも、粘液で滑って上手く動けないみたい。そんな二人にもスネイルミがカタツムリのスピードで迫って来る。 「スネイルミ、マジカヨ達を始末なさい。きっと痛いわよ、カタツムリのヤスリ状の歯でガリガリと削り殺されるのって。あっ、でもリリカルだけは始末しちゃダメよ。あの子は私がサンプルとして持ち帰って解剖するんだから」 ねっとりとしたバラバラヴァーの視線が私の体に突き刺さる。ど、どうしよう。ロジカルもフィジカルも動けない、私の攻撃は怪物たちに通用しない。クリティカルも今日は助けに来てくれる気配がない。 ビルの屋上から市民公園を見下ろし、戦いの様子を見守っているのはマジカヨクリティカルであった。ロジカル・フィジカル両名が倒され、リリカルにも魔の手が伸びようとしている。それでもクリティカルは動かなかった。クリティカルと契約しているジャッカルは彼女の脳裏に直接話しかける。 「クリティカル、助けに行かなくていいのジャ?」 「ええジャッカル、ここは静観するわ。私ぬるぬる苦手なの。クールでカッコいいマジカヨクリティカルが粘液まみれになって悶えるさまなんて、誰も見たくないでしょう?」 「しかしこのままでは、あの三人は死んでしまうのジャ」 「・・・これは試金石でもあるわ。ここで死ぬなら、残念だけど彼女たちでは力が足りないという事」 「あのバリアや粘液を何とかしないと・・・でも私の魔法じゃ・・・」 現実は絵本とは違う。物語の魔法使いのように、何でもできるわけじゃない。 「ほんとにそうかな?」 そうだよ。ロジカルやフィジカルと違って、私には特別な個性もない。魔力砲、空を飛ぶ、魔法の盾を出す。そういう、魔法少女ができて当たり前の魔法しかできない。 「試した事もないくせに。魔法というのは本来、もっと自由な発想で発展してきた。やってみればできるものだよ」 そんな事言われても・・・言われても?違う、これ喋っているのは私だ。口が勝手に動いて言葉を並べてく。 「何もできないのは、できないと思っているからだよ。信じて、自分の魔法を。何でもできる。私が私を信じれば」 自分の魔法を信じる。そうだ、まだ終わってなんかない。考えるんだ、どうするか。直接攻撃は通用しない。だったら環境を変えればいい。雨の中なんてカタツムリのホームだよ。イメージするんだ。でも、この雨を全て吹き飛ばして炎天下に出来るイメージは湧いてこない。だったら、逆に雨を利用するんだ。この雨が、もしも雪だったなら。 「全部・・・凍っちゃえ!」 私が魔法の力を放つと、降っていた雨は雪に変わり、地上は急激に冷え込んだ。 「な・・・ななななんなのこれは。さ、寒い」 バラバラヴァーも震え上がっている。そしてスネイルミは・・・粘液ごと凍ってる! 「でかしたリリカル!」 「ふん、これならば!」 パリパリの粘液を簡単に破壊して、ロジカルとフィジカルが立ち上がる。フィジカルの拳が凍って動けないスネイルミに叩き込まれた。粘液を使えず、スネイルミは木っ端微塵になる。本体が死んだから、小さい方も全部溶けて消えちゃった。 「これがリリカルの力・・・!くっ、覚えてなさい!」 バラバラヴァーは転移魔法で逃げていった。私たちの勝利だ! 「素晴らしいわ、リリカル!一つ殻を破ったわね」 クリティカルは常ならぬ喜悦の笑みを浮かべた。 「これで一歩、私の目的に近づいた。マジカヨが強くなれば怪物もまた強力になっていく。そうすれば、回収できる『混沌の魔力素』も増えていく」 「クリティカル・・・」 ジャッカルは少し悲し気に、契約者の少女の名を呼んだ。 「もっと、もっと強くなって頂戴。そうして最後には・・・私が全てを刈り取る。ふふっ・・・あははははは!」 ビル街に響いた哄笑は、マジカヨ達の耳に届く事はなかった。