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『野良塾補習とブルマ断罪蹴(リターンズ)』――ブルマじゃないから恥ずかしくないです――
灼熱の太陽の下。 「ふんぬっ……よし! 次の畝、行きますッ!」 ブロント少尉がシャベルを握り、仁王立ちする。 白くてピチピチのTシャツ。襟と袖は濃紺の縁取り。下はネイビーのブルマ。 まるで昭和の体育祭から飛び出したようなその姿に、チンピラ連中は誰も触れられなかった。 いや、触れられる空気ではなかった。 (く、くっそ……なんで俺ら、ジャージのまま農作業……) (ていうかあの格好で真顔で鍬振られたら、文句のつけようがねえ……) しかも彼らの頭髪は、アフロが半月状に、ロン毛が幾何学模様に斬り落とされ―― 見るも無残な「農業モード」へと変貌を遂げていた。 「そこの苗、根が浮いてます。やり直しです」 全員がビクッと背筋を伸ばす。 そこに立つのは、富士見軍曹。 黒髪ボブに整った顔立ち、無表情の美人。 着ているのは最新スポーツブランドのようなスマートなジャージ。足元は真っ白なスニーカー。 その眼差しは、農耕の神よりも厳しかった。 「軍曹、それ……暑くないんですか?」 汗だくのブルマ姿で振り返るブロント少尉が、首のタオルを絞りながら聞く。 「問題ありません。実務面を重視しています」 つれない答え。 「ふええ……やっぱり軍曹ってクールで……って、あれ? なにこのカエ――」 ゲコ!! 突如跳ねた巨大ガマガエルに驚いたブロント少尉がバランスを崩し、 まっさかさまに――富士見軍曹の腰元へ、一直線。 ズルッ! 「…………」 見事にずり下がったジャージ。 露わになったのは、意外にもおしゃれなデザインの黒ショートパンツ。 数秒の静寂の後―― バァンッ!!! 富士見軍曹の裏拳が炸裂し、空高く吹き飛ぶブロント少尉。 「問題、発生しました……ッ!!」 空中で悲鳴を上げながら回転する少尉を見上げ、 チンピラたちは揃って額に汗をにじませた。 「……オレら、マジで真面目に生きてこうぜ」 「うん……生きるって、尊いことなんやな……」 野良塾の一角。誰かがそっと、倒れた少尉に麦わら帽子をかぶせ直した。 日も傾き始めた午後。 畑の端でブロント少尉は、日陰に寝転がっていた。 額には濡れタオル。完全に伸びきっている。 芋ジャージのチンピラたちは、誰一人ふざけることなく、黙々と鍬を振っていた。 空には蝉の声が響き、ただ作業の音だけが、静かに続いている。 富士見軍曹は氷水の入ったポットと濡れタオルを手に、一人ずつに声をかけて回っていた。 やがて、ブロント少尉のところに戻ると、静かにしゃがみ込む。 「まったく……人騒がせな人ですね、あなたは」 そう言いながらも、軍曹は手元のタオルを軽く絞って、額にそっと乗せ直す。 その手つきは、どこか、優しかった。 「でも……この人たちを変えたのは、確かにあなたのやり方だった。 バカ正直すぎて、妙に人を動かす。ホント、理解できませんよ……」 少尉は返事もなく寝転がったまま、ほんのわずかに口元を緩めた。 「ふふ……寝たふり、ですか? 本当はちゃんと聞こえてるくせに」 軍曹は少しだけ笑って立ち上がる。 足元では、なぜかあの巨大ガマガエルが、じっとしていた。 「……世話が焼けるんだから」 その声は小さく、でもどこか満ち足りた音色だった。