thumbnailthumbnail-0thumbnail-1thumbnail-2

1 / 3

アフロ編 〜視界絶断のクレセントカッター〜

夏の午後、陽炎がゆらめく裏通り。 白い日傘に、ふわりと風をはらむサマードレス姿の少女が、トコトコと足早に歩いていた。 「ふっふーん♪ これは完全に一般のお嬢様ですわー。こんな格好なら、仮に帝国士官であることがバレても絡まれることはないですね」 サングラスをかけ、日傘を揺らしながら上機嫌の少女——ブロント少尉は、今日も例によって何かの任務(自称)中であった。 街中の非正規外来魚駆除を目的として、道中で見かけた釣り人たちに「環境保全のおしらせ」を行っていたところ、何やら声をかけられる。 「よう姉ちゃん、いいモン着てんなァ……ちょっと道案内でもしてくれや?」 チンピラ風の男が、ニヤつきながら肩をすくめて歩み寄ってくる。髪は妙に盛られ、無意味にでかいサングラス、そして胸元には金のチェーン。 ブロント少尉は一瞬きょとんとしたが、次の瞬間、その背筋がピンと伸びた。 (……これは挑発です! 士官学校の戦技課程で学びました!) しかし、彼女は「お嬢様モード」中である。場を荒立てるわけにはいかない。 「……あの、わたくし、急いでおりますの。ではこれにて——」 ひらりと方向転換した瞬間、別の男が進路を塞いでいた。こちらはひときわ厳ついアフロヘア。 ワイルドなアロハシャツを着たその男は、煙草をくわえながら低く唸るように言った。 「ちょっと待てや。ウチの弟分が道聞いてんだろ……なァ、お嬢ちゃん?」 (これは完全に包囲戦です! しかしご安心ください、武力行使の法的根拠は——) そして、次の瞬間。 スッ。 白い日傘が風に舞い上がり、サマードレスが翻る。 それは、舞踏のような身のこなし。 「ブロント少尉、交戦可と判断! 必中必殺クレセントカッターッ!!」 サンダルのかかとを弾くように跳び上がったブロント少尉の体が空中でひねられる。 美しい弧を描いた内回し蹴りが、軽々と空を裂くようにチンピラのアフロを薙いだ! ビシッ! アフロ前部の跳ね上がり部分が吹き飛び、サングラスは中央から真っ二つ。 煙草は口からふわりと落ち、無様な音を立てて地面に転がる。 「……」 バサリとアフロの毛が落ち、現れたのは、驚きと困惑に満ちた、妙につぶらな目。 「お、お嬢様じゃ……なかった……軍人だったのか……」 その言葉を聞く前に、アフロ兄貴はへなへなと座り込んでいた。 視界を刈り取られ、虚勢を打ち砕かれ、完全に戦意を喪失していたのだった。 ブロント少尉はふうっと息を吐き、蹴りの残像を振り返るように振り返る。 「ふっ……精神的象徴、視界絶断。これがクレセントカッターの真価です……」 真夏の路地に静寂が戻る。 倒れ伏したアフロ兄貴のつぶらな瞳が、どこか切なげに空を見上げていた。 — その日の夕方、福井君は農具小屋で焼き魚を焼いていた。 あのアフロ事件の後、突風で破け脱げたサマードレス直すため、ブロント少尉が再び体操着+ブルマ姿に戻ったのである。 「さすがにちょっと無理があったようですね。あの蹴りどうだったですかねぇ、福井君」 「うっ……そ、そうっスね……すごかったっス、少尉の……フォームが……」 赤面しながらうつむく福井君の視界に、さりげなく揺れるハイレグブルマと艶やかな脚線が映ってしまい、彼の心は今日もまた穏やかではなかった。 焚火の上では、りっぱなブラックバスの丸焼きが、パチパチと音を立てていた。 なお、縫ってつるしているサマードレスには、でっかいアマガエルがまたもや張りついていたという。

さかいきしお

コメント (15)

2025/06/07 05:33
2025/06/01 15:08
2025/06/01 14:24
2025/06/01 14:02

あぁ、貴重なアフロががが…というか少尉は金星の人でしたのね!

2025/06/01 09:10
2025/06/01 06:36
2025/06/01 01:38
2025/06/01 01:09

906

フォロワー

828

投稿

おすすめ