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その敬礼は、運命だった

その日、帝都は快晴だった。 オタクとは太陽を避ける生き物であるが、彼こと、福井君は違った。 「今日は……士官学校の学園祭、らしいぶひ」 帝国士官学校──すなわち、帝国自衛軍士官候補生たちの聖地。 そこで「学園祭を一般開放」するとあって、福井君は三日三晩悩み、勇気を振り絞って門前に立った。 そのときだった。 「……っ!!」 目の前を、黒い軍服風のメイド服に純白のエプロン、腰にはサイドアーム、さらにナイフホルスター。 完璧に整った金髪ポニーテールにヘッドドレスの、美少女メイドが歩いていった。 「ぶっ……ぶひゃぁ……っ!!」 息を飲んだ。いや、肺が止まった。 まるで兵器。美しさという名の戦車。可愛さという名の対人地雷。 その少女の名は、もちろん──ブロント少尉。だが福井君には知る由もない。 「メイドカフェ……? 士官学校に……? なんかの……撮影ぶひ……?」 わけもわからず、ふらふらと、メイドに惹かれるように門を通過。 まるで何かの術式にでもかかったかのように。 気づけばそこは、学園祭内特設ブース──「コンバットメイドカフェ」。 室内には、完全軍規に基づいて整列したメイドたち。 そして、その中心に立つブロント少尉が、福井君を見た。 「ぶひっ……っ、あっ……あの、め、目線と…… ぽぽぽ……ポーズ、いいでぶか……っ?」 あらゆる感情が入り混じったその言葉に、少尉は無言で一歩、前へ。 そして── 左手に持ったキッチンナイフを静かに下げながら、右手で完璧な挙手の敬礼。 「……任務完了。敵、制圧済み」 その瞬間、福井君の脳内で何かが爆発した。 「ぶひゃぁぁああああ!!」 ―――――― 福井君は、病院には運ばれなかった。 ただ放心したまま、帰宅した。 自室で、机に向かう。 スケッチブックとペンを持ち、敬礼の姿を描き写す。ただひたすらに。 1枚、2枚、3枚……彼の手は止まらなかった。まさに“理想化されたブロントコンバットメイド”の降臨。 やわらかい表情、完璧なバランスで構えられたナイフ。 鋼のように強く、ガラス細工のように繊細な敬礼。 「ぶひ……ぶくの記憶だけじゃ、足りないぶひ……もっと、近づきたいぶひ……」 そして── 「ぶ、ぶく……いや、福井は……コンバットメイドに、敬礼されるに、ふさわしい男になるぶひ!!」 そう叫び、彼は走り出した。 ―――――― 夜明け。 帝都の街路を、汗まみれの男が走っていた。 ビニールの擦れる音。鼻息と、ぶひーぶひーという断末魔のような息切れ。 そう、それはサウナスーツ。まさに戦闘装備。 そして胸に抱えるは、ブロントコンバットメイドのスケッチブック。 それは、彼にとって“軍神の写し絵”。この世の守護札。 「……ふっ、ぐ……ぶひぃ……!」 「ま、まだ……距離は、7.62キロ……」 スケッチブックを抱きしめたまま、彼は街を走る。 走って走って、己を鍛える。 帝国自衛陸軍・予備役候補生となる日まで──! 市民は振り返る。 犬は遠吠えする。 子どもは泣き出す。 しかし、彼は止まらない。 「この命、ブロント少尉に……捧げるぶひ!!」 そして彼は、今日も走る。 この敬礼が、己を変えたからだ。 To be continued...

さかいきしお

コメント (16)

Kinnoya
2025/04/27 16:20
早渚 凪

仰天チェンジみたいな話やわぁ

2025/04/21 15:08
五月雨

福井氏、それはまだ早いでござるーですわ!

2025/04/20 13:00
うろんうろん -uron uron-

にゃんかやっばいことににゃってる気がするニャ~(TOT)

2025/04/20 12:45
翡翠よろず
2025/04/20 12:39
takeshi

ぶひ

2025/04/20 12:10
CherryBlossom
2025/04/20 12:09
Jutaro009

君は漢だ!

2025/04/20 11:03

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