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コンバットメイドカフェ ~C(M)レーションをお召し上がれ♡~
士官学校の広場は、今日ばかりは戦場ではなく、笑顔と喧騒の学園祭となっていた。 だが、その一角にだけ異様な緊張感が漂っていた。 偽装用の迷彩ネットとベニヤ板で構成された即席の「カフェ」。その名も―― “COMBAT MAID CAFE” 看板は木片に白ペンキで雑に殴り書き。背後には、 「ようこそ前線へ♡」と書かれたバリケードの裏から、満面の笑顔の“メイド”が現れる。 腰には装備帯、太腿にホルスター、そして肩には見慣れぬ架空国家の徽章。 一見して“狂気”と“こだわり”が入り乱れたその姿は、しかしどこか――完成されていた。 「いらっしゃいませませ!当店はコンバットメイドカフェでありますっ!」 前線調理キットを駆使し、弾薬箱の上に軍用メスキットを並べ、 本格的な“レーション風料理”をにこやかに配膳する少女の名は、ブロント少尉。 その場にいた誰もが、状況を理解するより早く、まずドン引きした。 ──家族連れの母親:「え……えっ? 本当にここで食べるの? ここ……“戦場”なのでは……?」 ──ミリタリーマニア:「俺たちはリアルを求めてるけど、これはちょっとリアルすぎる……うっ、でも味は……うまっ!?」 ──メイド萌え系キモオタ:「うおぉぉい!? これ、萌え要素どこに置いてきたんだよ!? メイドさんがこっち向いて銃抜いてるって何!? ……う、でもメイド服はガチ……」 ──自衛軍志望の真面目少年:「こんな人と任務行きたくない……でもなんかすごい存在感だ……!」 その一方で、ブロント少尉はまったく気づかない。 「えっと……この“C(M)レーション”って、なんなんですか?」 その声に、ブロント少尉はぱっと笑顔を向けて、軽やかな足取りでテーブルに近づく。完璧にアイロンがかかったメイド服の裾が揺れ、腰にはカバーレスホルスターが堂々と主張している。 「はいっ、ご説明いたしますっ!」 ドンッと勢いよくメスキットの蓋を開けながら、ブロント少尉は元気よく解説を始めた。 「『C(M)レーション』とは、Combat Maid Ration――つまり、**“戦うメイドの給食”**であります!」 (えっ!?)という客たちの一斉の心の声を無視して、彼女は続ける。 「普通のCレーションは、軍用携帯食。美味しくないとか、保存性優先だとか言われてますが……我がコンバットメイドカフェでは、それを**“美味しく!愛情をこめて!それっぽく!”**アレンジしてお届けするのであります!」 「それっぽくって……?」 少年が思わず聞き返すと、ブロント少尉はメイドスマイル全開で――しかし手はさりげなくモデルガンのグリップに添えながら、神妙に答える。 「味は本物、見た目は作戦区域、接客は乙女の全力。 それがC(M)レーション、であります!」 客たちは一瞬無言になるが……やがて笑い声が漏れ始め、少年もにやりと笑った。 「なんか……すごいな」 「そうなのであります!さあ、心の安全装置を外して、どうぞ召し上がれ♡」 どのメニューにも“本気”と“実戦感”がついてくる。味はなぜか良い。そこがまたズルい。 そして、遠巻きから見守る富士見軍曹は、眉をひそめつつも、心の奥で「まさかここまで……」と呆れ半分、妙な納得半分の表情を浮かべていた。 「……これ、絶対に計算じゃない。むしろ、何も考えてない。あの人、感性だけで行動してる。なのに、なぜか成功してる……」 ひとりごちる軍曹の隣では、子どもが「このプリン、手榴弾のケースに入ってるー!」とはしゃいでいた。 「……ブロント少尉って、毎回“現実の壁”をバズーカで吹き飛ばしてくるわね……」 富士見軍曹は、しみじみと野戦ラーメンをすすった。