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金獅子(しっぽ)宙を舞う
帝国自衛軍・士官学校、模擬戦訓練場。 ギラギラと日が照る中、集められた士官候補生たちは、ざわめいていた。 なぜなら、今日の模擬戦の実技デモンストレーションは――あの、例の、伝説の(?)少尉によるものだったからだ。 「……ふむ、見よ、これが『ライオンの構え』である!」 金髪ポニーテールが陽光を浴びて輝き、制服のプリーツが風にはためく。 無駄にダイナミックな手足の開き。背後にはなぜか黄金のライオンのオーラが見えた(気がした)。 「獅子は兎を倒すにも全力を尽くす……!よって私は全力で富士見軍曹を叩く所存である!」 (やめとけ……) (おいやめろ) (少尉また変な技使おうとしてない……?) 士官候補生たちの内なる呟きをよそに・・・・・・ 対する富士見二等軍曹――黒髪ボブにタイトスカートの制服を身にまとい、涼しげな目元で黙って構える。 彼女の動きは一切無駄がない。飾り気のない構えが、逆に不気味なほどに洗練されていた。 「いざ、参るっ!!」 叫ぶなり、ブロント少尉は「ライオン跳躍」とかなんとか叫びながら、軍曹めがけて突進―― (ズザァァァアッ!!) その瞬間だった。 富士見軍曹が一歩横に滑るようにかわし、相手の手首をさりげなく取った。 わずか半秒、しかしその動きには一切の淀みがない。 「ふぇっ……う、うそだろ、これが……合――」 ドゴォォン!!! 空中で一回転した金髪が、地面に真っ直ぐ叩きつけられた。 砂埃が舞う。静寂。 そして、かすかに聞こえるくぐもった声。 「…………ぬかった……構えがでかすぎた…………」 そのままぺたりと地面に突っ伏し、ブロント少尉はライオンの尾のようにうなだれたポニーテールをふるふると揺らした。 周囲で見ていた男女の士官候補生たちは、沈黙ののち……各々小声で語り始める。 (少尉……怖いけど、たまにすごい可愛いな……) (いじけてると、なんか子猫っぽく見えるわ) (あとでチョコあげようかな……) (富士見軍曹、やっぱりクールでかっこいい。好き。お姉さまと呼びたいわ) (お前、軍曹に投げられたいのか?) (はい。何度でも投げてください!!) (おまわりさんこっちです) (でも……あのポンコツ少尉、なんでか放っとけないよ) (今度一緒に戦術シミュレーションやろうぜ……なんか変な発想出してきそうだし) 地面に突っ伏したまま、金色のライオンのオーラがぴくぴく震えていた。 それでも彼女の目は、どこかでまだ燃えていた。次こそは、と。 だが、ライオンは今だけは猫だった。 (次は絶対勝つ……富士見軍曹の合気道、学習済みである……) だがそのとき、横にいた軍曹がぽつり。 「次も、同じ構えなら同じ結果です」 「ひぃッ! 未来視か貴様ァーッ!!」 そしてまた、士官候補生たちの間に笑いとざわめきが戻ってきた。