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戦え!!ホーリー・レイダース
廃都メガクレの黄昏の路地に、三つの影が並んでいた。 中央に立つのは、漆黒のマントをなびかせ、シルクハットを傾けた男。上半身は裸、下はなぜか半ズボン。顔には怪しげなバタフライマスク。そして立派な口ひげ。どう見ても、変質者だ。 だが、胸を張るその背中には、確かな自信と覚悟があった。 右には獣耳の巫女服を翻す少女──ダキニラ。しなやかな体つきに、無邪気な笑顔。そして手には幸運の印たる投げ短剣。 左には銀髪の神官──リリス。流れるローブに包まれた冷ややかな美貌。だが、まぶたの奥に潜むのは、軽い呆れと小さな信頼。 その三人が、風の中に立っていた。 霧が渦を巻き、空間が歪んだ。 突如、巨大な目玉の怪物──バグベアードが姿を現した。触手のような脚、脈動する瞳、口のない顔。その瞳孔がぎらりと輝いた次の瞬間、光が放たれた。 ドオオオン、と地面が裂け、炸裂する熱波が三人を襲う。 チャーリーが真っ先に飛び出した。背中からマントが吹き上がるが、ズボンがその光に溶かされ、見る間に半ズボン姿に。 「ひょおっ!? こ、これは聖なる試練……!」 「チャーリー、あんたまたズボンだけ焼けてるじゃん!!」ダキニラが笑いをこらえきれずに声を上げる。 リリスは、はぁとため息をつきながらも、ちらりとチャーリーの背中を見る。その立ち姿が、なぜか妙にキマっているのが腹立たしい。 「……変態のくせに、運だけでうまく決まるんだよなあ。逝け、リーダー!!」 そう言うなり、リリスはチャーリーの背中を小突き、前線へと押し出した。 バグベアードの瞳が再び光を放つ。 「光線、再チャージ完了。目を逸らすな……!」チャーリーがそう呟いたとき、背中のマントがふわりと宙を舞った。 まるで狙い澄ましたかのように、マントはバグベアードの目に絡みつき、闇色の布が巨大な視界を覆う。 「いまだっ!」ダキニラが短剣を数本、的確に放つ。 「私も援護する。……“眠りよ、踊れ”」リリスの呪文が詠唱され、バグベアードの動きが鈍る。 チャーリーはすかさず、聖印を掲げて突進する。その姿は――裸に近い格好のくせに、なぜか異様に決まっていた。 「盗むのは宝じゃない。お前の視界と、勝利だッ!!」 閃光が炸裂し、バグベアードの身体が沈黙した。 怪物が崩れ落ち、沈黙の中、三人は並んで立っていた。 夕焼けが差し込み、瓦礫の中に黄金の光が注ぐ。 チャーリーは堂々とポーズを決めた。マントはない。バタフライマスク、シルクハット、半ズボン、口ひげだけの姿で。 「ふふふ……我らホーリーレイダースに、盗めぬ勝利はない!!」 ダキニラはぱちぱちと拍手しながら跳ねた。 「わ~チャーリー、流石リーダー!! かっこい~!」 リリスは隣で腕を組み、目を伏せるようにして呟いた。 「……おっさん、かっこつけてないで早く服着ろ。っていうかマント返せ。あれ私の」 勝利の風が吹き抜ける。 だが、彼らの戦いは、これからも続く――。