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かわいいあの子は少尉殿
士官学校に春の陽気が差し込む午後、男子候補生たちに久々の“外出許可”が出た。 気の合う数人で連れ立って街に繰り出した彼らは、春色のスカートが軽やかに揺れる金髪のポニーテール少女に目を留めた。 「なあ、あの子、めちゃくちゃ可愛くないか?」 「たぶん俺たちより年下だけど、背もあるし…モデルっぽい?」 「声、かけてみるか!おーい、そこのお嬢さん!」 少女は、くるりと振り返った。ぱっと華やぐ笑顔、そして不思議な無垢さが漂う。 「こんにちはー! え? 私? いいよ、ヒマだし。……え?パフェ!? 行く行くっ!」 ──そんなノリで、彼女はあっさりついてきた。 おしゃれなカフェで、彼らが注文したパフェ5人前を、金髪少女が独りでぺろりと平らげる。 「……すげえ……」 (なっ、何か変な子かも・・・・・・) 「ていうか、名前、聞いてなかったな」 (いや、なんかこの子の名前知って?) 何か、心がざわめくような違和感を感じつつも・・・・・・ 「……あっ、そろそろ帰らないと用事があるんだ。」 パフェ完食後、少女は急に真顔でそう呟いた。 心の底でなんとなく、引き留めては・・・・・・ 「まっ、まだ夜はこれからだよ。もうちょっと付き合っ、て‥‥‥よ?」 その一言に、少女の表情が変わる。 「……夜間訓練に自主参加するとはな……なかなか見上げた根性だ。いいだろう。先に格技場で待ってろ」 ドンッ! テーブルを静かに叩き、少女は立ち上がる。雰囲気が一変し、鋭い眼光が走る。 ──どこからともなく現れる周囲の沈黙。 同じカフェの片隅に座っていた富士見軍曹が、紅茶のカップを静かに置いた。 「直感は信じないといけないですね……」 「いや、普通に獣の匂いがするだろうが……」と栗林軍曹が低く呟いた。 富士見軍曹は今日、上品な白の春ドレスにパールのイヤリング、日傘を膝に立てかけ、まるで良家のご令嬢のような姿。 栗林軍曹は対照的に、長身のスタイルに似合うシンプルなパンツルックで、背中に軽くまとめた茶色の髪が揺れている。 ──そして、士官候補生たちは硬直した。 「あっああ、 もしかして、あなたって……」 「なっ、なんで、そんな恰好で……?」 「そっ、そういえばその髪型‥‥‥!?」 金髪のポニーテール少女は、ニヤリと笑う。 「改めて自己紹介しよう。私は第13独立戦技小隊所属、ブロント少尉。……出頭、命じる!」 少女、もといブロント少尉はスカートをくるりと翻すと、楽し気に走り去った。 「……え? 今の……やばくない?」 「……やばいぞ。俺ら、訓練申し込んじまった……!」 富士見軍曹と栗林軍曹は、カップを置き、同時にため息をついた。 「基地の周辺で、金髪ポニーテールなんて目に見える地雷でしょうに‥‥‥。彼らはブロント教官の髪を覚えてないのかしら」 「毎回講義で見てるはずだが。あれはな、見えてても“理解したことにしない”って脳が逃げてんだよ。うちの隊の医官が言ってた」