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新年の杯に宿る、虚空を翔ける蒼き謎
「なるほどね。そうやって人類を救うつもりだったの」 エルフの女戦士ノエル・シャンヌィールは、箸で酢昆布をつまみながら問い掛けた。 相手は髭のおっさん。黄金の杯を片手に、慈愛に満ちた微笑みを浮かべている。彼の前には豪華な料理が並んでいるが、どうやら酒の方に夢中な様子だ。 「そうさ。でも一番重要なのは、愛と信じる心だよ。それがなければ、この世界は変えられないからね」 「ふーん、愛ねえ。でもさ、酒だって信じる心が必要だよ?酔いが甘いか苦いかなんて、その時の気分次第だし。恋と一緒だな」 髭のおっさんは目を細めて微笑んだ。「恋と酒を一緒に語るとは、面白い考えだね」 「だって本当のことだもん。そうだ、髭のおっさん、ちょっと聞きたいんだけど、なんで『牧羊者』なんて呼ばれるの? 何かカッコいいエピソードがあるんでしょ?」 髭のおっさんは優しく笑いながら、羊飼いとしての象徴的な物語を語り始めた。しかし、その最中にドワーフのブロンクが乱入してきた。 「おい、シャンヌィール!また勝手に高級酒を空けてるのか?その酒、俺の山小屋で熟成させてたやつだぞ!」 「え、いいじゃん、せっかくの新年会だよ?ケチケチしないで」 「冗談、顔だけにしろよ。お前が飲むと次の日俺が始末する羽目になるんだ!」 「大丈夫だって!ほら、髭のおっさんも一緒に飲んでるんだし、問題ないって!」 「まさか救世主を言い訳に使うとはな……!」ブロンクは頭を抱えながらも、結局彼も席に座って杯を手に取った。 「しかし、この酒は本当に旨いな。山の神秘が詰まっている感じだ」髭のおっさんが感嘆の声を上げると、ブロンクは鼻を高くして言った。 「そりゃそうだろう。俺が手塩にかけて仕込んだんだからな」 「で、俺の労力に感謝する気はないのか?」ブロンクがシャンヌィールに突っ込む。 「んー、感謝?してるよ、いつも心の中でね」 「全然響いてない……」 夜が更け、宴もたけなわの頃。山小屋の窓から見える星空は、静寂と輝きに満ちていた。 空に舞い上がる薄い雲は、銀の糸で織られた絹のよう。風が囁き、遠くの山々の稜線をそっと撫でる。夜空に瞬く星々は、まるで遠い未来からの希望の灯火のようにきらめき、その下で小さな山小屋が新年の静けさに包まれていた。 その時、風がそっと宴の名残を攫い、どこか遠い場所へと運んでいった。それはまるで、また新たな物語の始まりを予感させるような静かな瞬間であった。