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「前世と変わらない」ある女生徒の手記
むむ~、このお店の冬の新作マント、どれもぴったりこないなぁ。魔法使いだから黒マントが基本なのは仕方ないけど、もうちょっと遊びを入れたい感じがする。 赤色、オレンジ色・・・う~ん、違うなぁ。もっと大胆に何か変えないと、全然目立たない。 ・・・こうやって鏡の前で着飾った自分を確認していると、嫌でも私の二色の瞳が目に入る。本当なら青一色だけだったはずの私の目。その右目は碧緑に染まっている。 両親が言うには、私が生まれた時に占い師の人に見てもらったら『前世の魂の影響です』って言われたらしい。前世の魂。心当たりは一つある。 それは、私『ヒマリ・インコーダ』がまだヒマリになる前。地球に生きていた頃の姿。碧緑の瞳を持つ、『鈴白向日葵』という名前の少女。 私は鈴白向日葵の記憶を持っている。だけど、私はヒマリであって、彼女じゃない。自分がもう一人いるという奇妙な感覚。 そして、自分の人生は向日葵に乗っ取られているんじゃないかと考えてしまうほどの、彼女からの影響力の強さ。 向日葵の記憶があったから、ファッションに興味を持つのは必然だった。記憶の中の向日葵は、衣類への造詣が深く、よく女友達のコーデを見てあげていた。 私もそれと同じ事をしている。でもそれって、ヒマリの意志なのか、向日葵の意志なのかが私にもわからない。 よりにもよって、姿まで私は向日葵とよく似ている。胸が成長しなかったのも一緒で、パッド三枚入れているのも一緒。まあ、私の方が幻覚魔法ある分誤魔化しのレベルは上かな。 そして、できた恋人の数も、破局する事になる原因まで同じだ。もうこれは運命が操作されてるんじゃないかとさえ思う事もある。 唯一、私の胸の秘密を知る男の人との出会い方は、向日葵の記憶とは異なっていた。どちらかというと、彼女の双子の妹『瑞葵』に近い。 写真家のウィローさん。彼の姿は、向日葵の記憶にある早渚さんとは似ても似つかない。だから、面影が重なる事もない。 それに、女性の趣味も違うみたいだ。早渚さんは瑞葵の事を気に入っていたように見えたけど、ウィローさんは胸の大きい女性が好きらしい。 この間、ウィローさんが胸の大きいキャストを揃えたセクシーパブから出てきたところと鉢合わせてしまった。友達の家への近道だからってそんな店がある通りを通った私も悪かったとは思う。 なのでウィローさんとはお互い会わなかった事にした。とはいえ、ちょっと気まずい感じはまだ続いている。 こうして考えてみると、姿も中身も、男運の無さも何もかもが前世と変わらないような気もしてきた。これって本当にヒマリの人生って言えるのかな。 ・・・服が決まらなくて、テンションが下がってるから変な事ばっかり考えちゃうな。今日の所は一回帰って、また出直そう。