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紅角の巫女、千夜の誓い

私の名前は千夜(ちよ)。 夜明けとともに名付けられたが、その名は赤い夕焼けのごとき私の宿命を予感させていたのかもしれない。 この異形の角を持って生まれた私は、幼い頃から「鬼の娘」と恐れられ、村人たちに背を向けられてきた。 けれど、この角が示すのは神の加護だと、ただ一人信じてくれた母が縫ってくれた紅の衣。 これを纏うと、不思議と心が静かに燃え上がるようだった。 薄青い空の下、光が私の髪をかすかに照らす。 長く滑らかな黒髪は、母の手で何度もとかされた記憶が宿る。 風が私の頬を撫でるたび、赤いリボンがそっと揺れ、耳元でささやくような音を立てる。 この一瞬の静けさに、私は決意を新たにした。 異世界「黄昏ノ原」にある山里は、四方を厳しい岩山に囲まれていた。 朝靄が広がる景色の中、紅葉した木々が燃えるように彩りを添えている。 村人たちはその紅葉を「神の怒り」と恐れ、誰も山を越えようとしない。 しかし私は、その山の彼方にあるという「神火の社(かみびのやしろ)」を目指さなければならなかった。 それは私の角が示す運命の道であり、そして村を救う唯一の方法だった。 腰に巻いた帯の上には、精緻な金糸の刺繍が施された護符が輝いている。 これには母の祈りが込められていると言われたが、私はそれ以上の重みを感じていた。 これを手放すことは、自分の意志を捨てることと同じだった。 険しい山道を進むと、風が冷たく肌を刺す。 それでも私の足は止まらない。 「角の娘」と呼ばれて蔑まれてきた日々。 だが、この角を持つ私だからこそ、見える景色がある。 この紅の衣も、私自身の誇りとして今は胸を張れる。 やがて道の先に、闇のように黒い影が立ちはだかった。 それはこの土地に伝わる「黒狼の化身」、神火を守護する存在だという。 ぎらりと光る瞳に、体中が震えた。 だが、逃げるわけにはいかない。 「私は千夜。この命、捧げる覚悟で来た!」 振り絞るように声を上げると、黒狼は一瞬だけその瞳を細めた。 次の瞬間、空気が張り詰める音とともに、鋭い風が私を包み込んだ。 黒狼の爪が私の肩をかすめ、紅の衣に赤黒い染みが広がる。 けれど、私はその痛みをただの通過儀礼と感じていた。 黒狼は私を試していたのだ。 痛みに耐え、目をそらさずその瞳を見つめたとき、不意に風が止んだ。 そして黒狼は低い声でこう告げた。 「汝の内なる炎を、我が見定めたり。進むがよい、千夜よ」 その声に涙がこぼれそうになるのを堪え、私は深く礼をして前へ進んだ。 神火の社にたどり着いたとき、目の前には壮大な紅の焔が燃え盛っていた。 その炎は私の角に吸い込まれるように流れ込み、全身を熱く満たした。 心の奥底から力が湧き上がり、村を包む暗雲を振り払う方法を悟るようだった。 村に戻った私は、紅の衣のまま、山の頂から流れ込む神火の力を解き放った。 その瞬間、紅葉した山々が鮮やかに輝き、村人たちの顔に安堵の表情が浮かぶのを見た。 私の角はもう、忌み嫌われるものではなく、神の贈り物として讃えられた。 そして私は再び山へと向かった。 黒狼の視線を感じながら、一歩ずつ足を進める。 神火を宿した身として、まだ私には果たすべき使命が残されているのだ。 風がそっと髪を揺らし、耳元のリボンが静かに踊る。 この山の向こうには、新たな旅路が待っていると信じていた。

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